コラム

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緊急時におけるスピード重視のテレワーク導入

テレワーク

緊急時における心構え

今回のテーマは、「緊急時におけるスピード重視のテレワーク導入」です。東京オリンピックを機にテレワークという言葉を耳にする機会が増えていたはずです。ただ、その時は、いわば「平常時のテレワーク導入」ともいうべき状況で、導入の手順等は真っ当ではあるが、スピード重視ではありませんでした。
ところが、今、最も重視されるのはスピードです。平常時と同じ発想、同じ手順では時間ばかりが過ぎてゆく、そんな状況に陥りかねません。
そこで、本コラムでは、「緊急時におけるスピード重視のテレワーク導入」 ということで、緊急時時ならではの割り切った手順でのテレワーク導入ついてお伝えしていこうと思います。

緊急時におけるテレワーク導入の目的

テレワークの大きな目的の一つに「パンデミックや地震等の災害時における事業継続」というものもあり、今回の新型コロナウイルスによるパンデミックも勿論、該当するでしょう。
ただし、一般的に提唱されているテレワークでは、パンデミックなどに備える場合でも、事前にしっかり計画・準備して取り組むことを想定しています。これは当たり前のことであり、本来、そうあるべきなのです。
しかしながら、このような事態を想定して事前にテレワークに取組んでいる中小企業は少なく、多くの中小企業にとっては、突然、テレワーク対策を求められ、戸惑っているというのが実情でしょう。
従って、現在のような緊急時における目的は、例えば、以下ように、もう少し社会情勢や個々の企業が直面している現実に即したものとならざるを得ないでしょう。

  • 社会の一員である企業として、外出自粛という社会の要請に応えるためにテレワークを導入する。
  • 社員の感染リスクを軽減するために、テレワークを導入する

現実に即した理解しやすく、共有しやすい目的とすることで、その後の取り組みにおける対策もやりやすくなり、判断や決断もしやすくなります。

テレワーク導入手順

平常時であれば、おおむね以下のような手順でテレワークを導入することになると思います。

図1:平常時におけるテレワーク導入手順の例

緊急時でも、この手順が大きく変わるわけではありませが、スピードが重視される緊急時には、個々の手順で実施すべきことには、何かと割り切る必要が生じてきます。また、場合によっては、手順そのものを省略することも検討すべきでしょう。

緊急時におけるテレワーク導入手順

緊急時でスピードを重視する場合、おおざっぱに言えば、平常時において実施すべきことを絞り込むことになります。

手順1:テレワークの導入目的の明確化

平常時には、通常、「働き方改革への対応」、「人材獲得機会の増大」、「コストダウン」など様々な目的が考えられ、ある程度時間をかけて明確化するのですが、緊急時には、既に説明した通り、現実に即したものとすることで、素早く決定すべきでしょう。

手順2:テレワーク対象範囲の決定

平常時には、テレワーク候補業務の実態を分析したり、テレワーク候補者の担当業務や職責などを考慮したりするのが普通です。しかし、緊急時には、「PCと電話で実現できる業務」など、より簡便な観点でテレワーク候補を絞り込むとよいでしょう。
また、テレワークには、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス活用」など、いくつかの種類があるのですが、今回のように「外出自粛」ということに主眼があるならば、「在宅勤務」に絞っていいでしょう。

手順3:テレワーク導入における課題の把握

平常時であれば、就業規則の改定内容や勤務時間の測定方法を検討したり、テレワークの申請・承認などのルールを考えたり、現状のICT環境を踏まえた最適なテレワーク法についての調査・検討を実施したりすることになるでしょう。
しかし、緊急時には、一部を手順5で実施することで、思い切ってこの手順自体を省略してもよいでしょう。

手順4:テレワーク導入計画の策定

平常時であれば、スケジュールや予算などを盛り込んだ計画を立てるべきでしょう。そして、テレワーク導入を、全社的プロジェクトして、要員を選定し導入を推進していくことが望ましい姿でしょう。
しかし、緊急時には、手順5を実施する中で、必要最小限のことは自ずと見えてくるということもあり、思い切ってこの手順自体を省略してもよいでしょう。

手順5:テレワーク環境の整備

平常時であれば、手順3での調査・検討を踏まえ、テレワーク環境を整備してくことになるでしょう。また、平常時であれば、整備する環境について、多くの選択肢から最適な方法が選択されているはずです。
しかし、緊急時でスピードを重視する場合、できることは限られます。つまり、選択肢も、平常時と比べれば限られてきます。その中から、素早く選択して(あるいは組み合わせて)環境を整備するとよいでしょう。
以下で、緊急時でも取組可能な2つの方法について、その概略をご紹介します。

方法1:クラウドサービスの活用

  • 準備として、ストレージ(記憶域)を提供しているクラウドサービスを契約する。インターネットで完結する契約だとスピードが速い。
  • 契約後は、クラウド上のデータを在宅勤務者のPCで読み書きできる。
  • クラウド上で扱うデータについて、社内サーバーとの同期をとる。つまり、両データの内容を自動的に一致させる。
法人向けサービスであることセキュリティ面などの観点から、法人向けサービスを選択すべきでしょう
ストレージ(記憶域)を提供していること当然、同期対象の全ファイルの容量以上のストレージが必要です。オフィスソフトとの組み合わせでストレージを提供しているようなサービスでも構いません
同期対象を限定する同期対象のファイルは必要最小限にしましょう。そのために、場合によっては、社内サーバー上のファイルを整理して、同期対象のフォルダを限定したりしましょう
クラウドサービス活用時の主な考慮点

また、多要素認証(パスワードとスマホへの認証番号の通知を組み合わせるなど)にも対応していれば、安全性も高まります。
在宅勤務者が利用するPCは支給することが望ましいのはいうまでもありません。しかし、PCの調達に時間がかかってしまう場合などは、推奨はできませんが、一時的に各自が所有しているPCを活用することも技術的には可能です。
なお、最近では、PCを持たず、スマホ主体でインターネットを活用している人も増えてきています。そのような場合、在宅勤務者の自宅にはインターネット接続環境が用意されていないので、まずは、スマホのテサリング(説明は割愛します)を活用することが、手っ取り早い対策と言えるでしょう。

方法2:リモートコントロールの活用

  • 準備として、在宅勤務者の会社のPCと会社のPCの両方にリモートコントロールのためのソフトウェアを導入する。インターネットで購入・ダウンロードできるソフトウェアタイプだとスピードが速い。
  • その後、会社で使っている自分のPCを、在宅勤務者のPCを使ってリモート操作する。在宅勤務者のPCに、会社のPCの画面が映り、普段行っている大半の業務が実施できる。
導入・設定が簡単であること緊急時でスピード重視の場合、導入や設定が複雑な製品やサービスは避けるべきでしょう。ここにあまり時間を割くべきではありません。また、ソフトウェアだけで実現できる製品やサービスであれば、品切れ等の心配もありません。
ネットワークに手を加える必要がないネットワークに手を加えるのは、少しハードルが高い作業になります。極力、ネットワークに手を加える必要がない製品やサービスを選びましょう。
リモートコントロール活用時の主な考慮点

なお、在宅勤務者が利用するPCの件、PCを持たずスマホ主体でインターネットを活用している人への対応の件は、「方法1」の場合と同様です。

コラボレーション(協同作業)に関する機能について

テレワークの説明動画などでは、テレビ会議やWeb会議のデモをよく見かけると思います。インパクトがあるので、つい、必須の機能と思いがちです。しかしながら、多くの場合、実は映像はなくても、それ程支障はありません。もちろん、会議の種類にもよりますが、大抵は、音声があれば十分です。
映像が映るということより、同じ資料を見ながら打ち合わせできるとか、どの参加者でも資料を編集できるとかなどの機能の方が役に立つでしょう。
ですから、Webカメラが調達できないからと言って、テレワークを断念したり、調達するまで開始を遅らせたりする必要はありません。

セキュリティについて

最も悩ましいのがセキュリティでしょう。緊急時だからと言って、情報漏えい等を容認してくれるわけではありません。
テレワークを始めるにあたり、セキュリティを強化することが望ましいことは言うまでもありません。ただし、そこに時間を取られてしまうようだと、元も子もありません。従来、組織として行っているセキュリティ対策に加え、例えば、すぐにでもできる可能性のある以下のような対策を行うことを前提に、テレワークを素早く始めるという割り切りも必要かもしれません。

  • 各従業員のパスワードを個人ではなく組織のパスワード管理者が決める。
  • テレワーク開始に伴いパスワードを変更する。
  • 定期的に管理者がパスワードを変更し、変更後のパスワードは電話で知らせる

セキュリティは重要ですが、どこまで対策を行っても完璧にはならないのです。緊急時には、従来にも増して、柔軟に考える必要があるでしょう。

手順6:テレワーク研修等の実施

平常時であれば、テレワークの目的、テレワークの対象業務、テレワークの申請・承認などのルールなども含めたマニュアルを作成することが望ましいでしょうが、スピード重視の緊急時には、簡単にテレワーク関連ツールの操作方法だけでも良しとしましょう。また、研修もテレワーク関連ツールの操作方法中心で良しとしましょう。

手順7:テレワークの試行

平常時であれ、緊急時であれ、試行することから始まります。ただし、緊急時は、平常時に比べ、時間のかかる対応が難しくなるため、テレワークツールの操作性やスピードなどについて、割り切りも必要となります。

手順8:テレワークの評価と改善

平常時であれば、目的の達成状況などをアンケート調査やヒヤリングなどによって調査し評価します。緊急時には研修もテレワーク関連ツールの操作方法中心で良しとしましょう。

手順9:省略したことの実施の必要性を検討する(落ち着いたら)

緊急時ということで色々簡略化、省略してきました。そして、往々にして、落ち着いたらそれで終わりとなりがちです。
でも、あくまで緊急時ということで、簡略化したり、省略したりしたのですから、落ち着いたら、改めて平常時の観点で見直すべきでしょう。

以上、緊急時におけるスピード重視のテレワークについてお話ししました。ここに示したことで、「ひょっとしたらうちの組織でもすぐにテレワークできるかも…」と感じる方は、ぜひ、テレワークに取組んでみてください。

本コラムを参考に、平常に比べてショートカットで、そして、緊急時だからこそ思い切ってテレワークを実現して頂ければ幸いです。

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